猫が死んだ朝
ヒガンバナが咲くと、思い出す猫がいる。
賢くて可愛く、ネズミ捕りが得意で、遭難の危機を救ってくれた、不思議な能力をもつ猫だった。
小学二年生で両親が離婚して母と二人で暮らすようになってから、留守番中にさびしくないようにと、母がどこかからもらってきた子で、グレーの被毛が美しい雌猫だった。
「離婚した家の子」なんて、今ならざらにいるけれど、当時は珍しかった。堂々としていればよかったのに、何となく引け目を感じてオドオドしていたものだから、執拗ないじめにあった。
持ち物を盗まれたり、蹴られたり、ひととおりのいじめは体験した。盗られた体操着や副教材を新しく買うお金がなかったので、先生にはいつも「忘れました」と嘘をつき、「だらしのないヤツだ」と嫌がられた。
気の強い母親は「やられたらやり返せだ」と背中を押してくる。学校でも家庭でも居場所がない中、唯一、味方になってくれたのが猫だった。猫だけは、バケツの水を被ってずぶ濡れになっていても、給食のジャムを体中につけて帰ってきても、いつも通りに自分を迎えてくれた。
猫を膝の上に乗せて、今日やられた嫌なことを全部話して聞かせていた。猫は黙って私の話を聞いてくれて、時々涙をなめて、慰めてくれた。猫だけが当時の私の、たったひとりの味方だった。
学校近くの山登りの遠足で、いじめっこからリュックと水筒を谷に落とされた。必死で取りに行って戻ったら、
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