虹の橋を渡る日まで
父の四十九日も終わり、気持ちも落ち着いたところで遺品の整理を始めた。生前は大雑把でズボラな性格だと思っていたが、久しぶりに入った実家の父の部屋は、きちんと整理整頓されていた。
ずっと工場勤めで技術屋だった父らしく、遺品のほとんどは本棚に残された機械・電機関係の書籍で、資格に関する古い参考書や資料も残されていた。
目立った家具は本棚と机ぐらいで、文具がきちんとまとめられた父の机の上には、家族写真ともうひとつ、犬の写真が置いてあった。
父が15歳から飼っていたという写真の犬は「ニパっ」という音が聞こえてきそうなとびきりの笑顔だった。色褪せてはいたが、犬につられて笑ってしまいそうな、いい笑顔をしている。
父にとっては大切な写真らしくて、時々、この写真を指で撫でるように触っているのを見たことがある。
父は家庭に恵まれなかった人で、詳しい身の上話を知ったのは、初めて二人で行った、小さな居酒屋でのことだった。
物心ついたときには母親はおらず、祖母とふたりで暮らしだった。二、三ヶ月おきに訪ねてくる「おっちゃん」がいたのだという。
「あのおっちゃんは、実の父親らしくて、『タモツ』は、そのおっちゃんが連れてきたんよ」と教えてくれた。
二パっと笑っていた犬は「タモツ」という名で、父が15歳のとき父親らしき人がいきなり連れてきたそうだ。
「いきなり『お前に誕生日プレゼントだ』とか言
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