犬が死んだ朝
母が急に入院・手術になって、あわてて病院に駆け込んだ。本人はけろっとしていて「心臓のパイパス手術なんだって。すぐ終わるらしいよ」とベッドに寝ていたけれど、いきなり病院に運ばれたと聞いて飛んできた私は、まだ何が何だかよくわからないまま立ち尽くす。
今朝、「行ってらっしゃい」と私を会社に送り出したばかりなのに、いきなり手術なんて信じられない。スーパーで急に息が苦しくなったので、休ませてもらっていたところ、どんどん具合が悪くなって救急車で運ばれて、心臓の血管が詰まっていることがわかったそうだ。
毎日顔をつきあわせているのに、気づかなかった自分が情けないし、手術なんて何が起こるかわからない。母が亡くなったら私はひとりぼっちになってしまう。目の前が真っ暗になって突っ立っている私の手を取って、母は「そんな深刻にならなくても大丈夫よ、座んなさい」とベッドに座らせてくれた。
母には本当に世話になったのに、何も返せないうちに逝ってしまったらどうしよう。座ったとたんに涙がこぼれて、泣きじゃくってしまった。母は幼い頃にやってくれたように背中をさすって、「大丈夫よ、バイパス手術ってすごく簡単なんだって、先生が言ってた」となぐさめてくれた。ごつごつした指が背中を優しくなでてくれる。そういえば父が亡くなった時も、犬が死んだ朝も、こんな風にしてくれたっけ。
あっという間に手術室に運ばれてしまい、
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