猫が死んだ朝
昼食にそうめんが出て、昔飼っていた猫を思い出した。商家の実家でも、婚家でも必ず猫がいたけれど、そうめんが好きだったのはその一頭だけだった。賢くネズミを捕るのが上手だったので、家族にも奉公人にも可愛がられていた。
老人ホームでは何ひとつ不自由のない生活をしているが、猫がいない。入所前、ボランティアさんに引き取られた子は元気に暮らしているから心配ないけれど、猫のあの手触りの良い背中の被毛を感じられないのは、とても寂しい。
そうめんは小さく丸められていて、箸かスプーンですくえば一口で食べられるように盛り付けられている。手間のかかる作業をしてもらって、ありがたいことだ。そっと一本だけ指でつまんで、トレーの端に小さく置いた。そうめん好きだったあの子のための、影膳のつもりである。
祖父の代から食品問屋を営んでいた関係で、ネズミ除けのために猫がいつも蔵にいた。ひんやりした蔵の中で、猫がじっと何かを見ている瞳が大好きだった。「嬢ちゃんはいつも蔵で猫と遊んどるわ」とお手伝いさんに笑われたけれど、暇があれば薄暗い蔵の中で、猫を膝の上に抱いていた。
戦争前、軍隊へ納品する食品が増え、いっとき商売が盛んになった。その頃、そうめん好きな子はネズミ捕りで大活躍してくれて、とても可愛がられた。私は国語の時間に「兵隊さんの物資を守る、ゆうかんな猫、猫も私もお国のために一生懸命」と書き、先生に褒めら
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