虹の橋を渡る日まで
夜中に段ボールを抱えた兄が、私の部屋に来て「車出してくれない?」といきなり頼んできた。仕事途中で子猫を拾ったので、24時間開いている動物病院に行きたいのだと言う。急いで車を出した。
幸いどこもケガは無かったけれど、栄養状態が悪く、獣医さんによると、しばらくはミルクを数時間おきに飲ませる必要があるらしい。ミルクや栄養補助剤など、たっぷり処方されて、会計したら、びっくりするような額だった。兄と私の財布が一瞬で空になった。
看護師さんにノミを駆除してもらった子猫は、意外と可愛い顔をしていた。家に帰ったら母と妹が待ち構えていて、箱をのぞき込んで喜んでいる。新しい命がやってきて、わが家に新しい希望の灯が輝いた。
昨年、父が急に亡くなって、わが家は激変した。母が「この死亡保険だと、家のローンが払えない」と泣きじゃくるのを見て、兄はさっさと大学を辞め、就職してしまった。妹は来年、高校卒業なのに、ずっと学校に通っていない。私は酔っ払って葬儀にも来なかった夫と大喧嘩をして離婚し、出戻った。夜、母の忍び泣く声が、家を暗くしていた。
私にとってみれば父親なんて、稼いで帰ってくるだけの存在だったと思っていたのに、そうではなかった。大黒柱を失い、兄はその跡を埋めようと必死で、それがまた、見ていて辛かった。
喪失感を抱えながら、誰もが淡々と自分の義務をこなしていた最中に、ノミだらけの子猫
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