虹の橋を渡る日まで
僕の一族(といっても大した家柄では無い)には、「猫を飼ってはならない」という掟(おきて)があった。一族の本家は代々神主で、大黒天を祀っていた。その使徒であるネズミを狩る猫は、禁忌扱いされていたのだ。今、本家は廃れてしまって、残された神社は地元の住民たちが共同で管理をしている。
本家の力が弱ってきた頃から、一族の間でこっそり猫を飼う家が出てきたそうだが、わが家では祖母の時代まで猫とは縁が無かった。祖母の母、つまり僕の曾祖母は本家筋から嫁入りした人で、とにかく「絶対に家に猫を入れない」と徹底していたらしい。
当時のわが家は間取りだけは大きい古びた民家で、曾祖母と祖父母、両親と僕と弟の大所帯だった。屋根裏ではズミが走り回る気配が絶えずしていた。でも、意外とネズミの害は無く、「ウチのネズミは悪さはしないよ」と曾祖母はいつも自慢げに語っていたものだ。
僕はこの曾祖母にとても可愛がられていた。暇さえあれば、奥の「ひいばぁの部屋」でお菓子を食べながら、一緒にテレビを見ていた。お気に入りは「トムとジェリー」で、僕より曾祖母の方が楽しんでいたと思う。「あのネズミは本当にお利口だねぇ」と、手を叩いて大笑いしていた。
大黒天を祀(まつ)る家としては、いつも猫よりも一枚上手のネズミの活躍を観るのは痛快だったのかもしれないと、子どもの僕は思っていた。
たいていは追いかけっこをしながら
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