犬が死んだ朝
腰痛が再発して、通勤途中の駅で動けなくなった時、この仕事は続けられないと悟ったのです。専門学校を卒業して看護師になり、動物病院に勤務してあっという間の10年でした。
一昨年、腰痛で入院した時、院長先生が「ゆっくりやすんで、きちんと治して」とお見舞いに来てくれたけれど、私が休みの間、人手が足りずに、みんなに迷惑をかけました。新卒の子は、研修期間中に手術室のサポートをさせられて、泣いてしまったそうです。
ネットからダウンロードした退職届にサインをして、院長に渡すと、あっけなく受理されてしまい、「腰が良くなって、また病院で仕事をしたくなったら、声をかけてみてね。ここじゃなくても、いろいろ紹介してあげるよ」で、終わり。ロッカーを片付けていたら、夜勤の先生も姿を消して、たった一人、取り残されました。
最後の思い出と、病院の中をスマホで撮影していたら、ふと過去帳のノートの束が目にはいりました。病院に来ていた動物が亡くなった時に、「日付、種、名前、飼い主名、年齢、場所と死因」を記録しておく、ノートです。ごく普通の地味なキャンパスノートを、10年前のものから手に取って開いてみました。記録の文字から、その時の様子やペットの在りし日の姿、飼主さんの顔が鮮やかに蘇ります。
最初に体験した死は「2009年4月1日、ゴールデンレトリーバー、ケン、飼い主・入江義文、12歳、入院中に心不全」でし
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