「猫をさがしています」のチラシで甦った母
マンションのポストに「猫を探しています」というチラシが入っていた。写真が可愛らしかったので、いつもはすぐにゴミ箱に捨てるのに、部屋に持って帰った。急に母親を思い出して、捨てられなくなってしまったのだ。
10年ほど前に亡くなった田舎の母親は猫好きで、死ぬまで猫たちのことを心配していた。近所にいる野良猫のこともだいたい把握していて、父親と二人でよく「野良猫パトロール」という散歩をしながら、猫に会いに行っていた。
生まれた時から猫と生活している自分にとって、猫はいつもいる存在だったし、母親の猫への愛情がよく理解できなかった。母の散歩に付き合う父にも「よくやるなあ」と思っていた。
母は夜、雨が降っていると、外を眺めながら「猫たち、濡れてないかしらねえ」と悲しそうにしていた。「どっかの物置とかに隠れてるから、ぜったい平気だってば」と言い放った時の、母の複雑な表情も忘れられない。人の気持ちがわからない、何ておバカな子どもだったんだろう。「猫を探しています」の一枚のチラシが、母の姿を甦らせた。
母が亡くなり、猫たちの存在が辛くなって、東京の大学に進学した。母の遺志を継いで、父と一緒に猫の世話をすればよいのに、「お母さんは死んだのに、猫は生きている」と悔しくなってしまったのだ。
ずっと田舎に帰らずにいたから、猫たちがどうなったかもよくわからない。父は最
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